現代哲学、特に形而上学の文脈で、「トロープ」という概念が注目を集めていることはよく知られている。単純化して言えば、トロープとは、この机だけが持つこの個別的な硬さや、この個別的な色などの「個別的性質」である。そして同様によく知られているのは、近年この概念が哲学上の市民権を獲得するに至ったのに先立つことほぼ一世紀、ブレンターノ学派の哲学者たちがトロープと同等の概念について多くの議論を展開していたという事実である。本発表では、特にブレンターノ、フッサールによるトロープの扱いにおいて特徴的な点を取り上げその意義を探ることを目指す。
彼らの見解に関して特徴的なのは、実在の記述に際してトロープに積極的な地位が認められただけでなく、トロープとそれを持つ実体との間の関係とは、われわれのよく知る「全体-部分」という関係に他ならない、と主張されていることである。例えば、『論理学研究』の第三研究において構想される形式的な全体と部分の理論は、フッサールがまさにこの点を前提していることを何よりも明らかに示している。またブレンターノも、少なくとも中期においては、これと同様の立場をとり、対象の「分離不可能部分」としてトロープを特徴付けている。 トロープと実体の関係は、全体-部分関係の一種である、というこの主張を前にしたとき、われわれのうちには一種のアンビバレンスが生じるように思われる。すなわち、トロープがそれを持つ実体の部分であるという記述は何らかの意味で適切であるように思われる一方で、その関係を通常の部分関係(机とその脚のような)と完全に同一視することには躊躇いが生じる、と思われる。つまり問題の主張は、ある程度のもっともらしさと、それと同程度のもっともらしくなさを持つように思われるのである。 本発表で私は、上のような感覚がどのような事象に基盤をもち、哲学的な反省を経た場合どの程度まで維持可能であるか、という点を明らかにすることを目指す。より具体的な論じ方としては、通常の部分関係と、トロープ-実体の間のいわゆる「内属関係」との間のアナロジーを支持するためのいくつかの材料をフッサールとブレンターノのテクストから取り出し、議論として明示的に定式化した上で検討する。また、P・サイモンズ、B・シュニーダーら現代の形而上学者が二つの関係の間のディスアナロジーを支持するために挙げる論拠も取り上げ、それらを見積もることも予定している。
by husserl_studies
| 2007-12-19 09:36
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