「間主観性の現象学」は、例えば「内的時間意識の現象学」や「現象学的心理学」がそうであるように、現象学上のトピックを表す標題であると同時に、『フ ッサール全集(Husserliana)』の特定の巻を示す標題でもある。しかし、ここに 他の例とは違った感覚を我々が持ちうるのは、何と言っても、『全集』第13巻から第15巻を占めるトリロジーの圧倒的なボリュームのゆえである。扱われているテーマとしても、そしてその物理的な厚みからしても、広く人口に膾炙した フッサール像には未だ反映しきれていない何か、もしかしたら決定的に重要な何かがそこに見出せるかもしれない──そういう期待を抱かせるには十分だろ う。刊行されてからすでに40年あまりの月日が経つが、全体で 2000 頁近くにもなるこの浩瀚なテキストとそこに遺された思想がいまだに魅力(と困惑)の源泉でありつづけているゆえんである。
トピックとして見ても、分量を計れる書物としても、「間主観性の現象学」はその全貌を容易に一望できるような代物でははじめからない。初学者にとってはなおさらだろう。しかし、状況は今後、徐々にではあれ変わっていくに違いない。昨年10月に完結を見た『間主観性の現象学』(ちくま学芸文庫、2012 年/2013 年/2015年)によって、文庫判・抄訳でありながら頁数では原著のそれにも及ぶテキストが日本語でアクセスできるようになったことの意義は大きい。 この訳業は、現象学にすでに通じた読者だけでなく、今から後に現象学を学びはじめる者にとってもまた確実に、「間主観性の現象学」へと近づくためのよすがとなるだろう。 こうした状況を踏まえたうえで、本研究会では、以後ますます活気を帯びてくるであろう当該領域の研究に資するべく議論の場を用意できればと考え、本シンポジウムを企画する。提題者として田口茂氏(北海道大学)、鈴木崇志氏(日本学術振興会・京都大学)を、またコメンテーターとして『間主観性の現象学』 監訳者の一人である浜渦辰二氏を迎える。それぞれのアプローチで他者や間主観性の問題に携わってきた三者を混じえた議論のなかで、「間主観性の現象学」 が研究会参加者にとって、端的に、あるいはよりいっそう近づきうるものとなることを願う。
by husserl_studies
| 2016-01-21 20:15
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