フッサールは『ヨーロッパ諸学の危機と超越論的現象学』(以後『危機』)において、「関心(Interesse)」概念を、現象学の「無関心な傍観者(uninteressierter Zuschauer)」という態度を特徴づけるための、対比概念として使用している。フッサールは『危機』第35節において、何らかの関心の方向性を持った生を「職業(Beruf)」と呼び、生活世界における職業的な実践のあり方と、その実践の遂行者が持つ関心との繋がりを明確にしている。こうした 実践的な関心に対して、現象学的な態度は、そうした関心に共に参与しないこととして規定され、無関心な傍観者や「新たな理論的関心」を持った態度と命名される。
フッサールは『イデーンI』の中で、関心と無関心についてほとんど言及していない。しかしながら『第一哲学』講義では、エポケーと還元の遂行が持つ特徴を明確にするために、 関心概念についての分析が多くなされている(VIII 92ff)。そこでは、関心は存在定立を遂行し、特定の価値付けおよび目的を素朴に前提とする作用として定義され、無関心な態度はそのような個々の関心に参与しないこととして規定される。また『デカルト的省察』でも、無関心な態度と、関心を持った態度とが、世界についての存在定立の観点から言及されている (I 73ff)。このことから、フッサールが現象学態度を明確にするために、1920 年代以降の探求において、関心概念の分析を重要視していたと想定される。『危機』における生活世界論と実践的関心との結びつきは、その思想的発展の最終的な帰結であるということになるだろう。 このような背景から推測して、『危機』における関心についての記述は、現象学的な態度とその意図を理解する上で、重要な位置を占めていると考えられる。しかしながら、関心についての主題的な論述は、これまでの研究においてほとんどなされておらず、わずかにハーバーマスが「認識と関心」論文において触れているのみであるが、その言及も『危機』の試 みを歴史的背景に基づいて、否定的な批判を加えたものであり、内在的な視点から評価した ものであるとは言い難い。したがって本発表は、まずフッサールが関心概念をどう定義して いるかを確認した後に、フッサールが『危機』において、日常的な関心と対比しつつ、現象学に固有な関心を「世界意識」の分析を主題とする普遍的関心として考えていたことを示す。
by husserl_studies
| 2016-01-21 20:06
| 研究発表要旨
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フッサール研究会
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