「フッサールと現代形而上学」
司会:植村玄輝(日本学術振興会/立正大学) 提題:秋葉剛志(日本学術振興会/埼玉大学)、早坂真一(神戸大学) コメンテーター:柏端達也(慶應義塾大学) 開催趣旨 フッサール現象学のいくつかの側面がいわゆる分析的伝統における形而上学(「現代形而上学」)と高い親和性を持つという事実は、いまや多くの研究者によって認識されているといっていいだろう。こうした状況におそらくもっとも大きく貢献したのは、ケヴィン・マリガン、ピーター・サイモンズ、バリー・スミスによる一連の仕事である。これらの仕事はフッサール研究に二つの実り豊かな展開可能性をもたらした。つまり、(1)フッサールの議論を現代形而上学の道具立てを用いて明確化し発展させる可能性と(2)その逆に、フッサールの発想を現代形而上学で盛んに論じられている問題の解決に役立てるという可能性である。本シンポジウムの目的は、マリガンらの仕事ではもっぱら初期フッサールに関連づけられてきたこれらの可能性を、いわゆる超越論的転回以降のフッサールに即して示すことにある。フッサールと現代形而上学の双方に通じた二人の提題者による報告と、現代形而上学の専門家によるそれらへのコメントを通じて、フッサール現象学の新たな展開可能性をなるべく具体的に浮かび上がらせたい。 秋葉剛志「フッサール知覚論と性質の因果説」 E・フッサールはその知覚論において、事物—―空間的広がりをもち時間を通じて持続する事物—―は、多様な現れのもとで与えられることを強調している。それらの多様な現れは、あるものは意識の顕在的な与件として、他のものはそれを取り巻く地平として、相互にきわめて密接な体系的連関を形成する。そしてフッサールによると、事物はまさにこうした体系的連関をなす無数の現れの総体として(あるいはそれによって)構成されるのである。 本提題の目的は、フッサールが提示するこのような知覚論を、現代の分析形而上学の道具立てを使って読み直すことである。なかでも今回注目したいのは、性質論(性質という存在者の実在や本性について探究する形而上学の下位分野)における有力な立場の一つとみなされている性質の因果説(S・シューメイカーらの提案するもので、「力能説」などとも呼ばれる)である。この立場によると、それぞれの性質は、相互に因果的な連関をなすような無数の力能からなる束として分析される。言い換えると、性質の存在はその因果的振る舞いによって尽くされるのである。提題者のみるところ、フッサールの知覚論は、このような性質分析と比すべき多くの内容を含んでおり(上の「性質」を「事物」に読み換えてみれば、両者の形式的類似性は明らかだろう)、それとの比較によっていくつかの特徴を際立たせることができる。本提題では、これを具体的に示すことを主目的とする。 参考文献 E. Husserl, Ding und Raum: Vorlesungen 1907, hrsg. von K-H. Hahnengress, Meiner, 1991. S. Shoemaker (1980). “Causality and Property.” In Peter van Inwagen (ed.), Time and Cause. D.Reidel. Reprinted in his Identity, Cause and Mind (expanded edition), Oxford University Press, 2003: 206–33. S. Shoemaker (2007). Physical Realization, Oxford University Press. 早坂真一「命題的態度ならびに態度的対象の志向的分析」 分析哲学では、「信じる」や「願う」などの命題的態度を表す動詞の分析においては、そのような動詞を含む文の意味論的分析が中心を占めてきた。そして、特に、態度的動詞の補語の位置に来るthat節が意味論的値として何を取るのか、という問題は存在論に関わっている。that節の意味論的値としては、命題、あるいは事実や可能性が考えられ、どの存在者を想定したほうが、態度的動詞を含む文に対してより説得性の高い意味論的分析を与えることができるのかが議論されてきた。ところが、近年になり、命題的態度の分析には志向的分析が有効であることを示唆する論者が現れてきた。そのような論者のひとりであるMoltmannは、ブレンターノやフッサール、マイノングらのオーストリア学派の判断論を取り上げるべきだと主張している(Moltmann & Schnieder)。というのもMoltmannは、「Johnの主張」のような名辞化によって導入された態度的対象(attitudinal object)が命題的態度の分析において中心的な役割を果たすと考えられるからである。態度的対象はその態度をとっているagentの志向性から分離不可能であり、命題のように心から独立(mind-independent)であるとは考えられていない。さらに、名辞化という言語操作によって導入される対象であるため言語から独立(language-independent)でもない。フッサールもMoltmannと同様に名辞化され、真なる述定の主語となっているものを対象として認めるという考えを提示している。しかもフッサールの分析は、名辞化や、述定の主語にするという操作を単なる言語的操作としてではなく、志向作用の変様として分析する。このようなフッサールの志向性分析は、Moltmannの議論をより精緻に補強するように思われる。本発表では、これを実際に示したいと思う。特に、態度的動詞を含む文に現れる命題的要素に、意味論的値としてどのような存在者を割り当てるかは、規約や説得性、自然さの問題ではなく、その命題的態度をとっているagentの志向性の問題であるということを示したい。 参考文献 Husserl, E. Erfahrung und Urteil, Felix Meiner Verlag Gmbh, 1999. ―――. Formale Und Transzendentale Logik: Versuch Einer Kritik Der Logischen Vernunft. Mit Erganzenden Texten. (Husserliana XVII), Kluwer Academic Pub, 1974. ―――. Logische Untersuchungen, Zweiter Band Erster Teil (Husserliana XIX/1), Springer, 1984. King, J. C. “Designating Propositions,” Philosophical Review, 111, 2002, 341–371. Moltmann, F. “Nominalizing Quantifiers,” Journal of Philosophical Logic, Springer Netherlands, 32, 2003a, 445-481. ――― “Propositional Attitudes Without Propositions,” Synthese, 135, 2003b, 77–118. ――― “Nonreferential Complements, Nominalizations, and Derived Objects,” Journal of Semantics, 21, 2004, 1-43. ――― “Attitudinal Objects,” 2009, unpublished, http://semantics.univ-paris1.fr/pdf/attitudinal%20objects-publ2.pdf ―――. “Propositions, Attitudinal Objects, and the Distinction Between Actions and Products,” Canadian Journal of Philosophy, Supplementary Volume on Propositions, Edited by G. Rattan and D. Hunter, forthcoming. http://philpapers.org/rec/MOLPAO Moltmann, F. & Schnieder, B. “Nominalization,” http://semantics.univ-paris1.fr/pdf/Nominalizations%20-%20Project%20Description.pdf Rosefeldt, T. “'That'-Clauses and Non-Nominal Quantification,” Philosophical Studies, 137, 2008, 301–333.
by husserl_studies
| 2014-01-10 19:50
| 研究発表要旨
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