「現象学的還元と構成の問題:フッサール超越論的観念論の基本的構図」
松井隆明(東京大学) 現象学的還元とは何か。『イデーンI』公刊から一世紀も経つというのに、今なおこうした問いが立てられなければならないというのは、奇妙なことのように思われるかもしれな い。だが、この問いはまだ応えられていない。それどころか、これが応える必要のある問いなのかどうかということさえ、議論の余地があるように思われる。 現象学的還元に対する懐疑論は、還元がなぜ必要なのか、還元によって何がもたらされるのかに関するフッサール自身の積極的な説明が、還元論を主題とする『イデーンI』第二篇のなかに見出されないという事実に由来する。近年、還元論の実践的な側面を強調す ることでこの問題に応えようとする解釈がいくつか提出されているが、これに対して、本発表は、超越論的観念論という枠組みを背景にこの問題に応えることを試みる。発表者の見るところでは、還元論は、『論研』以来のフッサールの志向性理論の基本的な方針と、「構成分析」という彼の超越論的観念論的な問題構制を押さえるならば、純粋に理論的に要請 されるものとして十分に解釈できるものである。 この構成分析という問題構制の背景には、知性とものの一致という「真理の名目的説明」 (KrV, A58/B82)に対する回答としての超越論的論理学、というカント的な問題構制があ る。したがって、フッサールの構成分析とは、新カント派マールブルク学派の汎論理主義や、同西南学派の価値哲学ととともに、伝統的な真理概念に対してカントが与えた回答に対するひとつの再回答として見られるべきものである。以上のような文脈を背景に、本発表は、フッサールの構成分析を、諸対象の成立にかかわる「規則」に関する問題として提示する。 ダン・ザハヴィが繰り返し強調しているように、たしかに、フッサールが書き溜めた草稿を参照することなしに彼の現象学を正確に理解することはできない、というのは事実だろう。だが、同時に強調されなければならないのは、これらの草稿によって、フッサールが生前に自らの手で出版した著作の価値が損なわれるわけでは決してない、ということである。本発表はできるかぎり公刊著作に依拠して議論を行おうと思う。もちろん、このことは、草稿が出版される以前の研究状況へと逆戻りすることを意味するわけではない。本発表は、草稿を、もっぱら公刊著作で表明されているフッサールの哲学を理解し解釈するための道具として用いるにすぎない、ということである。
by husserl_studies
| 2014-01-10 19:34
| 研究発表要旨
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フッサール研究会
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