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成瀬翔「心的ファイルとノエマ」
「心的ファイルとノエマ」

成瀬 翔(名古屋大学文学研究科)

本発表は、分析哲学において研究が行われている「ファイル概念」とフッサール現象学との接点を明らかにすることを目指す。ファイル概念は哲学において新奇なアイディアではなく、グライスやストローソンによって60年代後半から70年代初頭に提唱され、確定記述の指示的用法や同一性言明を説明するために導入された。その後、指示の因果説を批判し、ファイルとその支配的源泉というアイディアを提唱したガレス・エヴァンズをはじめ、多くの研究がなされており、心の哲学においてもルース・ミリカンが個体概念の内容をファイルとして捉える研究を行っているように、狭義の言語哲学を越えてファイル概念は哲学において広く受け入れられている。

これらの研究を継承し、フランソワ・レカナティは「心的ファイル・フレームワーク(mental-file framework)」を主張する。レカナティの心的ファイルという概念は、特定の対象に関する情報をひとまとめにしておくために用いられるものであり、固有名の理解は、その音声によってしるし付けられたファイルと話し手がそこに収めている情報からなるとみなされる。レカナティによれば、心的ファイルはエヴァンズが主張する非記述的意義に他ならず、対象との「認識的に有益な関係(epistemically rewarding relation)」によって獲得される。そのようにして獲得された心的ファイルは単称名辞のように対象を直接的に指示するのではなく、そのファイルを制作する際に主体と対象の間の認知的関係によって個別化されたフレーゲの「意義」、ないしバイアーによるとフッサールの「ノエマ概念」に相当する役割を果たす(Beyer 2008)。

本発表ではレカナティの心的ファイルとノエマ概念の親近性を示し、フッサール現象学におけるノエマ概念をめぐる議論に新たな光を当てることを目指したい。

Beyer, B. (2008) Noematic Sinn, in F. Mattens (ed.) Meaning and Language: Phenomenological Perspectives Phaenomenologica Vol.187, pp. 75-88
Evans, G. (1982) The Varieties of Reference (edited by J. McDowell). Oxford: Clarendon Press.
Recanati, F. (2012) Mental Files. Oxford: Clarendon Press.
Smith, D.W.(1982), “Husserl and Demonstrative Reference and Perception”, in HICS, pp.193-213.
Smith, D.W. & McIntyre, R(1971), “Intentionnality via Intensions,” in The Journal of Philosophy, vol.LXVIII, pp.541-561.
by husserl_studies | 2014-01-10 19:31
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