フッサールの『論理学研究』を「突破口の著作」たらしめたものの一つとして、意味概念の志向性理論への導入を挙げることができるだろう。周知のように、対象から区別された「意味」と呼ばれる内容概念を導入することで志向性の本質的な特徴付けを与えるという彼の枠組みは、志向性理論と呼ばれるものが一般に直面する様々な困難との格闘の結果である。言い換えれば、彼の意味概念は、対象に対する作用の持つ独特な関係性としての志向性に対して不合理に陥ることなく適切な理解を可能にするものとして導入されたものである。結果として彼が「意味」と呼ぶものは、対象から区別され、イデアールな性格を持ち、作用に例化されることで対象的関係を作用に与えるものである、等々の形で特徴付けられることとなった。このような彼の意味概念に関する経緯ないし諸規定はこれまでも繰り返し述べられてきたことであるが、しかしこれらはそのままでは彼の意味概念の積極的な特徴付けというより、彼が批判的に検討したブレンターノやトワルドフスキらの志向性理論と同じ轍を踏まないために、彼の意味概念が満たさなければいけない条件といったほうがより適切なものである。実際、例えば、作用の持つ対象的関係を、それが例化することによって対象的関係を与えるような存在者の導入によって説明するというのは、立場の明確化という意義はあれ、そのままではほとんど無内容であろう。したがって、『論研』の意味概念が思弁的な理論構成から要請される特徴付けを超えた、積極的な内実を持つならば、それはいかなるものなのかという問題が持ち上がることとなる。
本発表はこの問題に関して、フッサールが「充実化」と呼ぶ概念を十分に明確化することを通じて応答することを目指す。なぜなら、『論研』においては充実化概念こそが意味概念を本質的に規定しているものであるからである。この充実化概念が適切に明確化されることによって、これまでの先行研究において「呈示の仕方」や「アスペクト性」といった仕方で曖昧に指示され語られてきた意味概念の内実が明確に具体化されることとなるだろう。
by husserl_studies
| 2011-01-24 16:45
| 研究発表要旨
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フッサール研究会
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