1894年の「志向的対象」論文における考察を萌芽とし、1896年の『論理学講義』を経て1901年の『論理学研究』初版において体系的に確立されたフッサールの初期志向性理論は、「意味」概念に対してある種の手続き的な媒介性格を担わせるという傾向をもっていた。この時期の志向性理論における意味概念とは、
まだ見ぬ対象を探索しその当否を判定する手続きであり、仮に探索が失敗に終わり、あるいは当てのない探索が永遠に続けられようともそのプロセス自体は存在し、それ自体として意味をなすような探索手続きという性格をもつ。そして、このタイプの意味概念を採用するならば、意味と対象は決して同一視されない。意味は対象へと到るプロセスであり、媒介者である。最終的に発見される対象は、一般には、それまでの探索のプロセスを自らの中に含んでいるわけではないだろう。意味は決して対象の一部ではない。しかし、初期志向性理論においては確かにそうであったと思われるこうした理論的選択は、『論理学研究』初版から『イデーン』第一巻刊行までのあいだに、何らかの動揺を余儀なくされたように思われる。この動揺の歩みがすなわち、ノエマ概念ないしノエマ的意味という概念の形成の歴史にほかならない。この時期のフッサールは明らかに、いわば対象のうちに受肉した意味の概念を打ち出している。対象へと到ろうとする作用のうちにあるいわばノエシス的な意味に対して、客観の側に置き入れられた、いわば対象と同じ存在論的平面に重ねられたノエマ的な意味概念が台頭して来るのである。 しかしこれはそもそもいかなる動揺なのか。作用にとって何かが対象であるとは、あるいは意味であるとはいかなることか。このことをフッサール志向性理論特有の意味において正しく解明しておくことなしには、ノエマ的なものが作用にとって対象であるか意味であるかという問いは、そもそも問いとして内実を確保することができない。この問いの地平を正しく整理することが本発表の目標である。
by husserl_studies
| 2011-01-24 16:42
| 研究発表要旨
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フッサール研究会
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