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小手川正二郎
「真理と知――フッサールとレヴィナスの真理概念―― 」

フッサールが、『論理学研究』において提示した真理概念は、「対象性が存在するということは、何を意味するのか」という諸対象の存在の意味を問う次元を切り開き、後に真理概念に独自のアプローチを試みることになるレヴィナスにも決定的な影響を与えた。しかし、従来の研究は、レヴィナスがフッサールにおける理論的諸作用(判断作用や表象作用)への優越に対する批判から、独自の思想を発展させた点を明らかにするにとどまり、フッサールの真理概念がレヴィナスにおいていかなる意味で問題となり、いかなる仕方で交錯し合っているのかが語られないままになっている。本論は、フッサールの真理概念を巡る先行研究を参照しつつ、主にレヴィナス『全体性と無限』に絞って、フッサールの真理概念の射程とレヴィナスにおけるその捉え直しの意義を哲学的に検討することを試みる。

具体的には、まず『論理学研究』第六研究におけるフッサールの「ものと知性との一致(adequatio)」という伝統的真理概念の捉え直しを検討する。この捉え直しは、(語によって思念される)「志向的対象」と(想像や知覚において)「見られる対象」との区別を導入することによって、外的な対象と内的な表象との一致という考えを斥けることによってなされる。本論は、先行研究(Jocelyn Benoist, Entre acte et sens, Vrin, 2002.等)を活用しつつ、こうした捉え直しがボルツァーノやブレンターノの真理概念とどの点で異なるかを明らかにし、さらにはトマスにおける「一致」の意味に遡ってその意義を検討する。次に、レヴィナスが初期のフッサール研究において、『論理学研究』の真理概念を正確に捉えるだけでなく、『イデーンI』のドクサ的定立に至る、そこに孕まれた問題性を看取していたことを指摘し、こうした問題性をフッサールのテキストとつき合わせて論じる。さらにレヴィナスが『全体性と無限』において、言語活動と真理の関係を問い直すことで、フッサールの真理概念とトマスやプラトンに遡る古典的真理概念とを再考しているという解釈のもと、最終的にレヴィナスの真理概念におけるフッサールの真理概念の意義とその解釈の是非を吟味する。そうすることで、レヴィナスがフッサールの真理概念の認識論的性格を単純に批判したのではなく、むしろ「理論」の独自の解釈を踏まえて厳密な形で問題化していることを明らかにする。
by husserl_studies | 2009-12-27 13:57
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