1894年の「志向的対象」論文から1901年の『論理学研究』第二巻までの比較的初期のテクスト群において、フッサールは判断作用やその部分作用の意味論的構造分析という仕方で志向性理論を整備していった。その成果は、論理学ないし言語哲学としての体系的意味論の具体的な構築可能性という問題に関心のない解釈者たちにとっては、深刻な検討対象とはされてこなかった。初期志向性理論の問題性を執拗に指摘してきたのは、代案としうるより具体的で詳細な意味論であるフレーゲの意味論に通暁した論者たちである。
しかし、彼らの議論の重要性、彼らの議論がフッサール解釈として正当である部分と不当である部分との双方にともに含まれている哲学的な重要性は、十分に検討され尽くしたとはいいがたい。たとえば、対象そのものと区別された対象の類似物として「志向的対象」を位置づけてしまうDavid Bellの解釈、単に何かを思い浮かべたり注意を向けたりすることに類するものとして作用の対象的関係を考える傾向をもったErnst Tugendhatの解釈、そして、意味付与作用によって表現が意味をもつという教説をハンプティダンプティ理論に帰着させるMichael Dummettの解釈などは、フレーゲ的意味論の内部事情に精通した論者によるフッサール誤解のサンプルであるとともに、初期志向性理論を真剣に検討しようとする者への貴重な試金石でもある。テクストにしばしば抵触する彼らの不当なフッサール解釈は、フッサールの議論の本質的と思われた部分を、単に表面的にテクストをなぞるだけでなく自分なりに再構築して展開してみようとする哲学的姿勢の現われでもあるのだから。 それゆえ、そうしたフッサール誤解に対して、表層的な文献学的反証を持ち出すことによってではなく、彼らの議論の論証構造に即した形での論駁こそが、フッサールの擁護者の側に課せられた責任である。本発表では、「志向的対象」という概念を中心に初期志向性理論において分節化された操作概念を整理し、そのうえで、上述のような批判者たちの議論に対する応答を試みたい。そのことによって、初期フッサール解釈により鮮明な見通しを与えることができたならば、本発表の目標は達せられる。
by husserl_studies
| 2007-12-19 09:35
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